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高原へいらっしゃい(オリジナル版) (TBS系)
1976年放送
制作著作/TBS
プロデューサー/高橋一郎、山田護
原案/山田太一
脚本/山田太一、折戸伸弘、横堀幸司
演出/高橋一郎、福田新一、田沢正稔、深尾隆一、遠藤環
音楽/小室等 演奏/ムーンライダース
テーマソング/『お早うの朝』
出演/面川清次…田宮二郎、北上冬子…由美かおる、大貫徹夫…前田吟、高村靖雄…潮哲也、鳥居ミツ…池波志乃、村田日出男…常田富士男、杉山七郎…尾藤イサオ、服部亥太郎…徳川龍峰、小笠原史朗…古今亭八朝、有馬フク江…北林谷栄、高間麟二郎…益田喜頓、大滝秀治、金田竜之介、垂水悟郎、海老名みどり、矢崎滋、津島恵子、杉浦直樹、大場専造…岡田英二、面川優子…三田佳子
ほか



☆☆☆
 『高原へいらっしゃい』というほのぼのとしたタイトルにだまされてはいけない。いわゆる再建ものの元祖的なドラマだが、だからといってありがちなサクセスストーリーのように、ドラマが大団円に向かって前へ前へ進んでいくわけでは決してないのだ。
 このドラマを見進めていくと、一難さってまた一難、なんて展開さえも悠長だと思えてくる。とにかく多難続き。一致団結の高まりも束の間、すぐさま現実のカベが大きく立ちはだかり、理想に満ち満ちた意気込みはことごとく砕かれる。何度となく襲う深い苦悩。ことあるごとに、登場人物たちはホテルの再建にめげそうになる。そして最後には、ほとんどヤケ状態に。
 ここまで書くと、さぞや暗いドラマなのではと思えてくるが、どういうわけか、これが実に明るい。どんなに体裁を整えたり、カッコをつけたりしても、いかにもかっこ悪い登場人物たち。そんな一人一人の奮闘ぶりに慈しみにも似た気持ちが湧き出してくる。そして、思わず微笑んでてしまうのだ。このあたりは、山田太一調としかいいようがない、ならではの味わいだと言えよう。
 ただ、山田太一脚本作としては、上の下クラスの作品だろうか。結局、ホテル再建のスタートラインにつくまでの展開が、いかにも弱い。このあたりはリメイク版でも生じてくる問題点だろう。ただ、このオリジナル版では下手な小細工をやらなかった分、スタートしてからは実に引っかかりなく軽快に、ドラマは展開されていく。
 驚きは、17話を振り返ってみて、これといった感動的なエピソードなんてほとんどなかったということ。感動的な華々しさはないが、無性に人間がいとおしくなる。『高原へいらっしゃい』はそんなドラマである。
 ホテルの再建と自らの再生とに心血を注ぐホテルのマネージャー、面川を演じる田宮二郎が絶品だ。調子のいいうさんくささと信頼を勝ちえるだけの威厳。一挙手一投足に漂う気品とおかし味。そしてあまりにも深い苦悩からにじむ陰影が絶妙にブレンドされて、たまらなく魅力的なキャラクターに演じあげられている。コック長役の益田喜頓がかもし出すエレガンスにも心引かれる。ここぞとばかりの賢者ぶりが、このドラマを味わい深いものにしている。ワンポイント的ではあるが、食材をホテルにおろす地元民を演じる常田富士男の朴訥もいい。後半、ホテルマンに転進して(?!)、さらにその存在感が際立つ。
 由美かおる、前田吟、潮哲也、池波志乃らが演じたほかの従業員たちも実に生き生きとしていて、ドラマはキャラクターの魅力によって味わいが深まるのだということを改めて実感した。(麻生結一)




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