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盲導犬クイールの一生 (NHK総合月曜21:15〜21:58)
制作・著作/NHK
共同制作/NHKエンタープライズ21
制作統括/諏訪部章夫(1〜3)、浅野加寿子(1〜7)、大津山潮(4〜7)
プロデューサー/小松昌代
原作/石黒謙吾、秋元良平『盲導犬クイールの一生』
脚本/寺田敏雄
演出/岡崎栄(1、6、7)、渡辺一貴(2、5)、新田真三(3、4)
音楽/渡辺雄一
出演/沢口靖子、勝村政信、竹井みどり、益岡徹、矢島健一、大高洋夫、菜木のり子、近内里緒、高橋一生、松澤一之、俵木藤汰、邑野未亜、松田祥一、尾崎右宗、真木よう子、不破万作、勝地涼、菊池均也、平良政幸、木内晶子、橋本真実、青山瞳、近内里緒、中山史郎、須貝守男、松永英晃、村上雄太、山田陽、山崎大輔、宮田早苗、宮野真守、加藤四朗、竹内晶子、永田淳一、宮田圭子、伊藤隆、塩濱良夫、小西大樹、松永麻里、益野健平、多和田悟、高尾一生、中山史郎、うじきつよし、檀ふみ、玉置浩二
ほか

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最終回「ありがとう、クイール」(7/28放送)
☆☆☆★
 まだドラマははじまったばかりだというのに、テーマ曲を聴いただけで泣けてきた。これぞまさに、パブロフの犬!
 渡辺(玉置浩二)が入院して3年間、訓練センターで待機し続けたクイール。そのあまりの静かなたたずまいに、ある種の悟りの境地を見る。そして渡辺とのつかの間の再会。ブランクを感じさせず、スムーズにハーネスがつけられるシーンは、名場面中の名場面だ。ゆっくりゆっくりと渡辺の体をいたわるかのように歩みを進めるクイール。その30メートルの道のりに、渡辺とクイールのこれまでが走馬灯のように思い出され、目頭が熱くなる。
 ここでドラマが終わっていたら、☆☆☆☆つけたところ。ブリーダー、パピーウォーカー、パートナーと連なる物語の中でも、断然この渡辺とクイールの関係を描いたパートが抜群だった。ただ、このドラマはタイトルにうたわれているように、『盲導犬クイールの一生』なのだ。一生というスパンを律儀に貫くあたりもまた、いかにもこの物語らしいところ。
 それから4年。人間で言えば還暦にあたる11歳クイールが、パピーウォーカーである三都子(沢口靖子)と勇(勝村政信)の仁井夫妻の元に戻ってくた。まるで別の犬のように(まぁ、確かに別の犬なんですけど)老いぼれたクイールの姿に、長い人生行路劇の味わいを噛み締める。
 さらに1年後。クイール、白血病発病。幼犬・ジョナサン時代の最初の友達・亜弓(木内晶子)が駆けつける誠実の駄目押しよ。クイールが老いさらばえたように、亜弓もボストンに福祉の勉強をするために留学するまでに大きくなりました。ここで再登場する亜弓が描いたジョナサンの絵で、ドラマは見事に円環する。
 三都子と勇はクイールをつれて海に向かうエピローグ。渡辺がクイールに見せたかったその海が、きらきらとあまりにも美しい。仁井夫妻の会話は、誠実の許容量を越えていた気もするが……。1998年、クイール永眠。
 トレーナーが軸になって、ブリーダー、パピーウォーカー、トレーナーが直接にかかわりあうことなく、クイールという盲導犬だけとつながることにより、その一生を描いた点は、実に巧みだった。そして出演者たちと犬たちの名演。とりわけ、玉置浩二とうじきつよしはまるで本物だった。
 第6話で気になっていた点を一つ。逆算していくと、渡辺の娘(邑野未亜)が公衆電話で彼氏とこそこそ話していたのは1990年前後だから、時代考証は正しかったですね。(麻生結一)


第6回「もう一度会いたい」(7/21放送)
☆☆☆★
 ドラマを見終わり、しばらくしてもそのしみじみとした感動がよみがえってくる。玉置浩二が出演すれば、その作品の品質が保証されるの法則は、今回も見事守られた。いや、過去のいかなる名演よりも、この玉置浩二は素晴らしいのではとも思えてくる。クイールに注がれるこまやかな情愛に、嘘のかけらも感じさせない脅威。ときおり目につく都合のいい展開さえも、どうでもいいことに思えてくるほど。テレビドラマでここまでの名演を見せてしまう彼って、やっぱりちょっとやりすぎなのかも。
 そんな玉置浩二演じる渡辺と妻・祺子(竹井みどり)との何気ない語らいには、胸を締め付けられずにはいられない。竹井みどりの演技も、玉置浩二と同列に素晴らしい。
 かつての同僚、長谷川(益岡徹)たちと集まるエピソードにもたまらなくなる。水割りを頑なに断る渡辺の毅然とした態度。腕相撲にわざと負けてやる悪気のない無理解。そこに下手な感傷がないのがいい。家に帰るのが遅くなった渡辺が、夫の帰宅を待っていた祺子が電気もつけずに部屋にいたことを知る場面と、そこでの瞬間的な玉置浩二の表情にはもはやうなるしかない。
 クイールを洗う渡辺のエピソードに漂う幸福感は、日の光が差す場所に渡辺がクイールに連れられて行く名場面にとどめをさす。こういう美しい場面が、テレビドラマでも可能なんだなぁ。
 そして、沢口靖子のナレーション!何という日本語に忠実であろうとする真摯な姿勢。そして、真摯であるがゆえに硬直するナレーション。これを誠実と言わずして何と言う!渡辺の娘(邑野未亜)が公衆電話で彼氏とこそこそ話してるってことは、実はこれって少し前の時代設定だったの?!
 クイールが空を見てることがハーネスでわかると渡辺が語るラストシーンに、さらなる感動。やっぱりどう見たって、うじきつよしはうじきつよしではなく、盲導犬センターの人だ。
 岡崎栄ドラマにありがちな説教臭さのぎりぎりでドラマを救うのが、沈黙のクイール。10数匹使ったらしいが、犬のことがよくわかる方にはわかっちゃうのかな。犬の名演に最後はびっくり。あまりこういうほめ方はしたくないが、素直に泣けるドラマです。(麻生結一)


第5回「青空の記憶」(7/14放送)
☆☆☆
 渡辺(玉置浩二)とクイールのパートナーシップの深まりが、実に丁寧に描かれている。渡辺が真摯に盲導犬との訓練に取り組むさまが、ドラマの真摯さにぴったりと重なり合う感じだ。何気ないシーンにコクがあり、静かに心にしみる。クイールが渡辺に軽トラックの存在を教える場面など、渡辺とクイールの絆が説明台詞なしに描かれており絶品。
 沢口靖子のナレーションがまたマジメでいいんだなぁ。仕事中の盲導犬に声はかけられないも、クイールの立派な盲導犬ぶりにうれしがる都子(沢口靖子)と勇(勝村政信)の夫婦の感激が見る側にも伝わってくる。
 父親としてのあり方について、渡辺がクイールに愚痴る場面も秀逸。先生に怒鳴る場面で極論に走るあたりは紋切に生真面目がいき過ぎた感もあったが、父と息子の関係にクイールのまなざしが加わることで、ドラマのバランスはギリギリのところで保たれる。
 これって本当に『笑顔の法則』と同じ脚本家の作品?だとしたら、あれって明らかに手抜き作?また予告編が、本編以上に泣けるんですよね。自分の行いを悔い改めたい人にはぜひともお薦めしたい?! 大いに反省できますよ。反省。(麻生結一)


第4回「犬嫌いのパートナー」(7/7放送)
☆☆☆
 盲導犬クイール誕生の回だが、見ごたえがあったのは盲導犬訓練士の多和田(うじきつよし)と盲導犬に否定的な態度をとる視覚障害である渡辺(玉置浩二)との人間同士の攻防の方。これまで見てきた経緯とあまりにもかたくなな渡辺の態度に、最初は多和田により共感を覚えるも、渡辺のよき家庭人ぶりを見せられて、結局はそれぞれの言い分に深くうなずいた次第。
 胸を打たれたのは、渡辺が白杖を多和田にわたし、はじめてクイールと歩いた後、これまでいかに歩くスピードが遅かったかということを自覚して愕然とするところ。盲導犬訓練所を脱走したクイールの中途半端な冒険劇にはちょっと引っかかったが、それも渡辺のパートナーになるためのワンクッションだったと考えれば、一応納得がいく。ドラマの丁寧な仕上がりぶりは、夏休み用ドラマとは一線を画す。(麻生結一)


第3回「旅立ちの時」(6/30放送)
☆☆☆
 静かに、マジメに、しみじみと、なかなかいいドラマになってきた。クイール、生後3ヶ月の設定でいきなりデカくなる。4キロ足らず→10キロ強だから、そりゃそうか。
 リレー形式のドラマの中心をつかさどった夜遅くに大根を頬張る三都子(沢口靖子)とアドリブの台詞が冴える(?!)勇(勝村政信)の夫婦像がマジメでいい。トイレットペーパーのタイムサービスに走る三都子の後ろ姿に勇とクイールならずとも思わず笑み。
 不登校の政晴(勝地涼)の父母像がステレオタイプすぎるのも、生真面目すぎるためといえるか。野球との決別の意味も込めて、政晴からクイールに投げられた野球のボールが、再びクイールから政晴に返される場面がいい。
 冬になり、クイールははじめて雪を見て、そしてまた春が来るあっという間の8ヶ月、という時間の飛ばし方も、沢口靖子のマジメ極まりないナレーションのおかげで、誠実に見ていられた。最後の長い散歩。さらにデカくなったクイールがテニスボールを見過ごす成長ぶりに、清々しい感動がある。
 盲導犬の訓練士を演じるうじきつよしは、顔まで犬みたいになってのなりきりぶりを披露。そしていよいよ玉置浩二が登場。予告篇を見ているだけでも泣けてくる。本編でも泣かせてほしいところ。(麻生結一)


第2回「夜泣きと散歩デビュー」(6/23放送)
☆☆★
 マジメな物語がマジメな出演者との相乗効果によって、いっそうマジメになっていく。とりわけ今話は、三都子を演じる沢口靖子の真摯さにつきる。その分で★ひとつプラスに。(結)


第1回「はじめてのさようなら」(6/16放送)
☆☆
 出演している方々も真摯な顔ぶれなら、物語も実にマジメ。教育テレビのイメージでも通用するタイプのドラマである。もちろん、実際に教育テレビで放送されているドラマは、アヴァンギャルドを極めているわけだけど。
 このマジメさがピュア・ストーリーに転化されていけば、感動作になる可能性もあるかもしれない。『笑顔の法則』で手を抜いていると思いきや、寺田敏雄さんはこっちの執筆にお忙しかったんでしょうか?こっちの方が早くあがってるはずなんだけど。こちらでは『笑顔の法則』のようなことはないように願いたい。いや、祈りたい。(結)




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