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ブルーもしくはブルー〜もう一人の私〜 (NHK総合月〜木曜23:00〜23:15)
連続ドラマ
制作・著作/NHK
共同制作/NHKエンタープライズ、MMJ
制作統括/内藤慎介、鈴木圭
プロデューサー/千葉行利
原作/山本文緒『ブルーもしくはブルー』
脚本/中谷まゆみ
演出/国本雅広
音楽/鈴木康博
主題歌/『元気を出して』島谷ひとみ
出演/佐々木蒼子・河見蒼子…稲森いずみ、佐々木祐介…石黒賢、河見俊一…細川茂樹、牧原直也…内田朝陽、田島はるか…ベッキー、ミドリ…山寺宏一、森早苗…根本はるみ、保険勧誘員…角替和枝、タクシーの運転手…徳井優、藤沢美樹…七瀬なつみ、河見よし江…中尾ミエ、橘耕三…宇津井健
ほか

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第4週「出発」(7/14〜7/17放送)
☆☆☆★
 最終回2回前までは最高のできばえ。コーラスまで怖くなってる週明けの先制パンチから、ドラマの交錯度はいっそうに高まっていく。形勢は完全に逆転して、名前も夫も恋人も居場所も失った元本体(稲森いずみ)は神頼みならぬ、先祖頼みに母親の墓参りに出かけて、犬猿の父・耕三(宇津井健)と遭遇する。

「俺がもうちょっとしっかりしてりゃ」by耕三…宇津井健

って台詞は、朝ドラ再放送枠『ぴあの』の中でも何回聞いたことか。墓場で父親に抱きしめられる場面は、初めて元本体に同情してしまう感動的なシーン。
 透明人間を自覚した元本体がついに逆襲?! 紅茶に睡眠薬作戦で形勢が再逆転するのかと思いきや、何につけてももはや元影(稲森いずみ)の方が上手だったか。クッキーの誘導で睡眠薬を仕込んである紅茶がすり替えられる場面には、思わず声を上げてしまったほど。

「あなたさえいなければ、私は幸せになれるの」by元影

 元影が元本体を背負って道端に捨てに行く場面の酷烈さといったら、ここ最近のテレビドラマでこれほどのシーンは記憶にない。惜しむらくは、ドラマのピークが2回残したこの回にあったということ。

「悪いのは私だ。そしてもう一人の私だ」by元本体

 ここまでの出来ばえは☆☆☆☆級。最終回1回前からはドラマはまとめに入る。捨てたものを返してと、また勝手なことを言う元本体、いや元影。そう、ここに両者がイコールになる面白さ。河見(細川茂樹)の痴情の果てに、ねじれた関係性がさらにねじれて……。非常によくまとめあげられたエンディング。期待していたものとはかなり違っていたが、これはこれで納得がいくものだ。
 何はともあれ、23時の連続ドラマの中では過去最高の出来だったことに変わりはない。面白さの功労者は、何といっても2人の稲森いずみ。小さなリアクションの差異で本体と影の違いを見せていく演技は抜群としか言いようがない。その2人が同じ場面に溶け込む合成画面のの自然さにも驚かされっぱなしで、次第にそれが合成であることを忘れてしまうほどだった。(麻生結一)


第3週「復讐」(7/7〜7/10放送)
☆☆☆★
 今一番面白いドラマはズバリこれ。影(稲森いずみ)よりも自分の方が上手だとの過信の末に、自らの影に人生を奪われてしまう本体(稲森いずみ)。自分自身が自分自身を見くびっていたというスーパーコンプレックス状態に見進めるほどドキドキとなる。自らが自らをあの女呼ばわりだなんて、面白すぎるよ。
 影は本体を語る。

「わがままな人。正直言って苦手なタイプ」by影

ののしればののしるほど、その罵声が自身にかかってくるというアイロニー。

「あなたって、ホントに勝手ね」by本体

「だって、あなたの分身だもの」by影

本体と影の激突の傍らで、大爆発の予感をさせていた美樹(七瀬なつみ)も、すっかり影にボロボロにされる。

「会っただけで、子供ができたとでもいうわけ?!」by本体

だなんて、何とも夜の連ドラにしっくりくる台詞よ。
 そして衝撃的の本体⇔影の逆転の瞬間。これには当事者同士、本体も影もどっちもビックリ!本体の頭痛は、本体と逆転の兆候だったか。稲森いずみは、意地悪キャラと薄幸キャラでこそ本領を発揮すると思っていたが、その両方をいっぺんにやってるんだから、そりゃ無敵だ。意地悪スマイルがここに炸裂!

 それにしても、NHKのドラマへの無理解には驚かされる。臨時ニュースでドラマがズタズタに引き裂かれるのはもはや日常茶飯事だが、そのたびになぜあと15分待てないのかと、首をかしげてしまう。っていうか、この番組の金曜枠は15分番組ではなく、1時間番組でしょ。1時間のドラマを途中中断して、ニュースをやるだろうか?月〜木の放送と金曜日の一挙放送と両方抑えておかないと安心できないって、どういうことだ。視聴者無視の姿勢に、いい加減頭にくる。いいドラマを大切にしない姿勢は、制作サイドにも視聴者にも失礼だろう。(結)


第2週「嫉妬」(6/30〜7/3放送)
☆☆☆★
 2人が入れ替わってから、俄然面白くなってきた。W蒼子(W稲森いずみ)の互いの新発見が、新鮮な驚きに満ち溢れている。もう一人の自分である影=河見蒼子に見守られながら、河見(細川茂樹)に抱かれる本体=佐々木蒼子。この強力な構図が生み出した無類の面白さは、ドッペルゲンガーの不都合を忘れさせてくれるほど。

「このまま河見の側にいたい。でも河見の本当の妻、河見蒼子は今ごろ、愛情のかけらもない退屈な日々に飽き飽きしてるに違いない」by本体の蒼子NR

とんでもない!むしろ本体以上に楽しそうよ。実は祐介(石黒賢)と浮気していることを告白した美樹(七瀬なつみ)に、

「あの人、何にも言わないんだもん!」by影の蒼子

とは、“あの人”が両者(祐介と本体の蒼子)にかかる絶妙の台詞。

「ごめんごめん。寝てたの」by影の蒼子

って、確かに直也(内田朝陽)と寝てたもんね。そして自身の影に、本体は人生を奪い取られ始める。
 人生のトラップを仕掛けた影の蒼子は、縫製した洋服のタグにしか自分自身を刻印できなかった過去に、今鬱憤を晴らしはじめる。

「毎日遊ぶってのも疲れるなぁ」by影の蒼子

とは影ならではの贅沢系名言!独り言は影、ナレーションは本体と、ダブルなコメント名人ぶりで、『ブルーもしくはブルー』の稲森いずみが『年下の男』の稲森いずみ越えをはじめた?!
 『ブルーもしくはブルー』の蒼子(稲森いずみ)=『年下の男』の千華子(稲森いずみ)であったのと同様に、『ブルーもしくはブルー』の美樹(七瀬なつみ)=『年下の男』の梓(麻生祐未)であった!美樹が次第に口うるさい恐妻ぶりを発揮していく中、昔の有り様に戻った妻に段々と引かれ始める祐介(石黒賢)の男心の変容も次週への見事なひっぱり。
 嫉妬、羨望、裏切り、逆転の4文字が予告篇で回るよ。ただ、もしかしたら今週がピークなのかも?(結)


第1週「運命」(6/23〜6/26放送)
☆☆★
 湿気の漂うナレーション。不毛なジム通い。そして稲森いずみ。って、ほとんど『年下の男』の続編の趣。音楽もきっちり男性コーラスだもんね。これは確信犯でしょう。
 他人のそら似ではすまされないドッペルゲンガー。肉体までもが2つに分かれているリアリティからの遠のき方に微妙にひっかかりつつ、そのナレーション名人ぶり、その薄幸ぶりが『年下の男』からさらに進化をとげている稲森いずみの一人二役ぶりに大いに興味をそそられる。
 悪い父親役で宇津井健。これは珍しい。タイトルバックは凝った作りだが、主題歌が同じなので新鮮味にかける。このやり方は、そろそろやめにした方がいいのでは。(結)




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