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緋色の記憶〜美しき愛の秘密〜 (NHK総合月曜21:15〜21:58)
制作著作/NHK
共同制作/NHKエンタープライズ21、ケイファクトリー
制作統括/内藤慎介、家喜正男
プロデューサー/池端俊二
原作/トマス・H・クック“The Chatham School Affair”『緋色の記憶』
翻訳/鴻巣友季子
脚本/野沢尚
演出/渡邊孝好
音楽/岩代太郎
テーマ曲/『緋色の記憶』バイオリン演奏:アナスタシア
出演/吉住薫…鈴木京香、藤枝粧子…室井滋、藤枝利樹…國村隼、濱田直行(少年時代)…市原隼人、浅井舞子…秋定里穂、田崎刑事…田中隆三、江川刑事…山中聡、雑貨屋の主人…日野陽仁、藤枝奈々(少女時代)…中原知南、酒屋の主人…亀山助清、女性係官…小林節子、濱田直行…夏八木勲、湯本医師…西田健、相沢弁護士…嶋田久作、野坂奈々…銀粉蝶、濱田徳士…岸部一徳、濱田睦子…倍賞美津子
ほか

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最終回「原罪」(1/27放送)
☆☆☆
 そのあらがい難き原罪に、人生のままならなさが全篇に立ち込める。このドラマのそういう醸成効果の素晴らしさは、いまさら言うまでもないだろう。

「楽しいこともあったわね」by吉住(鈴木京香)

孤独という牢獄へ向かおうとする女のからくものポジティヴに、沈痛な面持ちとなる。
 エピローグのすべては、回想の段階を踏んで償いに費やされる。吉住の直行(市原隼人)への助言が確信に満ちた言葉で語られるだけに、

「もう許してあげる」

とすべての発端、引き金を引いてしまった直行を抱きしめる吉住の一言の色気に打ちのめされるのだ。
 初老の直行(夏八木勲)の悔恨がいたたまれない。あの水圧ではどんな方法を使ったとしても、到底ドアは開くまい。仮にその認識はあったとしても、みんな死んでしまった後での原罪のすべてが直行に注がれることは阻止できない。父徳士(岸部一徳)が校長を辞して、公立中学校の教頭になる、ってそんなことあり得ないだろうけど。
 ドラマとは離れて、タイトルに“野沢尚サスペンス”と銘打ったことへの疑問。大体、“○○サスペンス”とくれば、そこに原作者の名前が入るのが原則でしょ(“片平なぎさサスペンス”といった例外中の例外もあるが……)。ただ、野沢尚は脚色者だからね。これはちょっとやりすぎでは。確かに野沢尚さん、いい仕事してましたけど。(結)


第4回「凶行」(1/20放送)
☆☆☆★
 愛ゆえの恫喝。罪深き純真。悲劇的結末はすでに予感され、そしてついには現実に起こってしまう。そのあまりにも濃厚な推移に、思わずたじろぐ。
 印象的でない場面が思い当たらない。ヨットの処女航海の場面が見終われば、唯一の幸福な瞬間だったことに気がつく。

「いっそ死んでくれたらと思うことがあるよ」by藤枝(國村隼)

の意味深に液状の黒い影が。ディテールにまで可能な限りの凝り様。
 中でも白昼、吉住(鈴木京香)と藤枝の妻(室井滋)とがボートで湖に漕ぎ出すシークエンスには震える。吉住と藤枝の妻が互いに互いの眼を射抜く。揺れるボートにサスペンスは最高潮に。
 吉住の瞳からは今にも涙が溢れそう、複数回。記憶に残った舞子(秋定里穂)の笑顔が痛々しい。ただ、衝突のシーンに引きの絵は必要だったか。もっとも重要な場面に一瞬、テレビに返るが、再び予告篇にグッとくる。(結)


第3回「疑心」(1/13放送)
☆☆☆★
 ランプの交わり、湖上の語らい。すべてが何とも生めかしく映る。絵のモデルである濱田校長(岸部一徳)の動きを制御する吉住(鈴木京香)の一喝に、その研ぎ澄まされた空気。悩殺の連打に思わずフ〜ッとなる。
 すべてのカットに意味を持たせているかのような演出は少々煩わしくも思えるが、シネライクな映像はじわじわとした心理戦にふさわしい。湖畔を踏みしめる足音が盛り上げる無言のサスペンスにも思わずゾクゾク。ここまで揃うと、藤枝夫妻役がこの2人以外だったら、との欲も出てくる。うまさをとるか、若さをとるかの問題だが、藤枝の妻がボートをたたき壊すシーンの迫力あたりになると、室井滋ならではとも思えてくる。
 夏八木勲扮する初老の直行による回想形式が、これまでのところはピタリときてる。それにしても、鈴木京香が凄い。潤んだ瞳で官能を体現。(結)


第2回「密会」(1/6放送)
☆☆☆★
 闇夜の湖上に薫(鈴木京香)と藤枝(國村隼)がボートで遭遇するシーンに★プラス。櫓のこぎ音、重なり合うランプ。そしてそのランプの明かりに浮かび上がる薫(鈴木京香)の濡れた表情。まさにパーフェクト!
 そんなパーフェクトなシークエンスがパーフェクト足りうるには、そこに至るまでのエピソードの積み重ねがあってのこと。15歳の直行(市原隼人)がスケッチブックに描く薫(鈴木京香)の後姿に、哀切がにじむ。随所に挟まれる藤枝(國村隼)の朗読も利いてる。ただ、藤枝夫妻役は、もう少し若い人がやった方がよかったのでは。(結)


第1回「追憶」(1/6放送)
☆☆☆
 “野沢尚サスペンス”なる表明に、“野沢=渡辺孝好コンビが放った『喪服のランデヴー』の悪夢が蘇るも(NHKの渡辺孝好演出作では、『テレーズ・ラカン』を台無しにした『死者からの手紙』もまったくひどい代物だった)、陽炎の彼方にバスが浮かび上がるトップシーンからその雰囲気作りは入念で、いきなりに 汚名挽回なるかも、という予感がする。

「獣じみた、ぬらぬらと輝く眼差し」by直行(夏八木勲)

とは何とも官能的な表現。そんな瞳をたたえた美術教師、薫を演じた鈴木京香の妖艶さが白眉。回想を交えた登場人物の顔見世のさり気なさにも旨みあり。思わず続きが待ち遠しくなり、すぐにでも見たくなる(その念願は早30分後に達成されるわけだが……)。
 NHKのドラマ放送枠の乱心はいつまで続くのか?

第1回 1月6日  午後8時
第2回 1月6日  午後9時15分
第3回 1月13日 午後9時
第4回 1月20日 午後9時15分
第5回 1月27日 午後9時15分

と、回毎に放送開始時間が微妙に違ってるって、どういうことよ。これこそがサスペンスか?!! ドラマの内容だけにとどまらず、見始める行為自体にまでも緊張を強いられるとは。(結)




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