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2001年夏ドラマ一覧
ファイティングガール (フジテレビ系水曜21:00〜21:54)
制作/フジテレビ、共同テレビ
プロデュース/中山和記
脚本/神山由美子
演出/木下高男(1、2、4、6、8、10、12)、松田秀知(3、5、7、9、11)
音楽/中西俊博 主題歌/『seed』Time FellowShip
出演/吉田小夜子…深田恭子、宗亜美…ユンソナ、粟村元…坂口憲二、大伴洋輔…勝村政信、滝川稔…笹野高史、吉田冬実…平山綾、土屋浩太郎…安居剣一郎、ママ・なぎさ…渚まゆみ、高木…野村宏伸、板谷由夏、粟村光夫…泉谷しげる、三井祥子…天海祐希、吉田祐三…萩原健一
ほか



第12回(9/19放送)
☆☆☆★
 その突き放した結びに、いかにも神山由美子らしい高踏派的な極みを見る。でも、それぞれの旅立ちに注がれる眼差しは、厳しくもたまならく温かく、思わずみじみとしちゃいました。
 小夜子の元への鳩尾一撃、なんていう定番もおさえつつ、父娘でパラボラを見上げるシーンには、これまでにない新鮮な感動が。全編を通して登場した寺山修司の「ひとりぼっちのあなたに」も、読み聞かせという形式によって、非常に効果的に使われていたと思います。そのアフォリズム度では、アドレス帳に書き込まれていた小夜子の宣言文にも、独特の深い味わいあり。
 土ワイ、火サス(最近は月ミスなんてのもありますが)で犯人が暴かれるラスト・シーンも真っ青の、岸壁での別れの場面にも、ありきたりじゃない面白みが溢れていた。もちろん、軍艦島でロケしたドラマ作った人が書いてるわけですから、演出もこれぐらいでちょうどバランスがいいのかもしれないけど。「その額に意味があんだよ。」なんてダイアローグの妙も最後まで健在。闘う宣言後に振り向くと誰もいない、という余韻は、ゾクッとするほどに素晴らしかった。
 離合集散の展開は、『深く潜れ〜八犬伝2001〜』と同じだけど、今作のほうがよりストレートで清々しい。民放のドラマとしては、このあたりがギリギリのポピュラリティでしょうが、海坊主風のラスト・カットなんかは、やっぱり並じゃないかな。この小夜子が水に飛び込むシーンで、ドラマの円環が完了する。久々にテレビドラマ越えの試みを見た思いです。その半数近くは、この作家がやっているわけですが。次回作『実録・福田和子』にも期待。


第11回(9/12放送)
☆☆☆
 物事がうまくいったらいったで、今度はうまくいかなくなることも噴出してくる、という人生の反語が満載の展開にグッときました。雑誌記者にパンチ一発の小夜子以上に、泣いてすっきり出来る冬美こそが、もしかしたらこのドラマ中の最強なのかも。「何が悲しくてさ、一人で芝居見に行かなきゃいけないの。」にはこっちが傷つく。
 ためてためて、ここで出したか、三井さんの大変身。でも、眼鏡とって『ライオンキング』、見えたんでしょうか。外面は内面を変える、という展開は定石のつめ方。
 神田はなぜガードマンの制服のままに立ち読みを?

小夜子「ねぇ。私今度、雑誌に載んの。」
神田「えっ?とうとうプロレス界に?」
小夜子「ちげ〜よ。私、やりたいこと見つけたんだ。もう プーじゃないんだよ。昔の私とは違うんだからね。」
神田「へぇ〜。」
亜美「カンダ!カンダ〜!(なぜかカニさん。Vサイン?)」

 神山さん、全女ネタを忘れないでいてくれたんですねぇ。


第10回(9/5放送)
☆☆☆
 小夜子の怒りの爆発ぶりは更にヒートアップするも、話自体にはあざとい強引な展開など一切なし。それはおろか、むしろその語り口はリリカル度を深めてきております。
 今話はそれぞれのキャラクターに揺さぶりをかけた回。あと2回でどれぐらいまで階段を上り詰めてくれるのか。『深く潜れ〜八犬伝2001〜』での後半のスペシャルな畳み掛けが記憶に焼きついているだけに、ここからの神山さんの手腕に期待せずにいられません。普通のハッピーエンドは、ありえないだろうなぁ。


第9回(8/29放送)
☆☆☆
 『深く潜れ〜八犬伝2001〜』もそうでしたけど、神山由美子さんという脚本家は、女性同士の微妙な関係性を描くのが実にうまいですねぇ。猛進する小夜子に対する亜美の小さな反逆。仮病を装って美容院に行ったりといった一連の行動が、結果的には洋輔、元、亜美のトライアングルにまで微妙に影響を及ぼしてくるわけだから、ドラマの運びとしても、相当に高級です。
 浩太郎(安居剣一郎)と冬美(平山綾)の成り行きが、『ロメ・ジュリ』とはなるほどねぇ。強い意志を感じさせる平山綾がなかなかのはまり役でいい。でも、家出した冬美を公園でばっかり探してるのは変じゃなかったかい。
 お父さんを演じる萩原健一は、もはや顔だけで演技してますねぇ。唯一描き足りない感のある三井さんには、もう少しスポットを。


第8回(8/22放送)
☆☆☆★
 美しき努力水泡劇に一筋の光が。物語の進め方、絡ませ方ともに抜群にうまい。ダイアローグにもモノローグにも惚れ惚れしちゃいます。ただドラマの組み立てとしては、水泡から一転しての実りを描くのは難しいですから、来週の展開には特に注目です。
 成田空港での顛末、一瞬亜美が小夜子に見えた?! 相似化でしょうか。そう言えば、ユンソナの顔つきが、ワイルドになってきてるように見えるんですけど、これって単なるメイクのせい?!
 小夜子と亜美が再会するラスト・シーンのタイミングもいいですねぇ。カラオケでためてためて、最後の最後で深田恭子に持ち歌歌わせる楽屋落ちも笑えた。ミシンを守る小夜子の必死の形相に、本当に彼女は全女でもやっていけそうな思いにかられる。殺陣は微妙にずれてたけど。密かに、小夜子の顔をはったのって、三井さんが初めて?! まぁ、あの人こそ大きいですからねぇ。


第7回(8/15放送)
☆☆☆
 清々しさと切なさと力強さとが同居した展開にうまみを感じます。表参道のクリスマス・ライトアップって、去年もやってたでしょ?!冬美と浩太郎のダイアローグをしみじみとプレイバック。

浩太郎「自分がさ、特別っか、うん、そう、自分が特別になったような気がすんの。それは俺だけじゃなくって、きっと、ここ歩いてるみんながそうなんだ…。わかるかなぁ?」
冬美「うん。」
浩太郎「わかる?マジで?」
冬美「うん。すっごくわかりやすいよ。」
浩太郎「そっか。」
 歩道橋の上で手をつなぐ冬美と浩太郎。

 最後の最後にやっと飛び出したか、小夜子の張り手。ヴァイオリンが大活躍する中西俊博のスコアが絶妙です。エンディングのタイトルバックもいい。隅々にまで、趣味のよさが光る。


第6回(8/8放送)
☆☆☆★
 “苦労は買ってでもしろ”と言うけれど、これだけ“働けど働けど…”、“一難去ってまた一難”じゃあ、「頭くる、全部!」ってダンボールをボコボコにしちゃいたくなる気持ちもよくわかる。結局、自ら散乱させたダンボールを後片付けしちゃうというトホホが、更なるしみじみを誘います。亜美の“ちゃりんこ=自転車のことね!”で鼻歌もまたしみじみ。「自分に罰を与えたかった」という三井の苦悩と、店のメニューを全部注文する祐三(小夜子のお父さん)には、大人のしみじみがある。三井さんの身柄を引きとる際に、なぜ祐三は印鑑を携帯してたかという謎も、ここは不問に付しましょうよ、と甘くなるほどにここはいい感じのシーン。
 小夜子と祐三が仕事について真逆のことを言う場面の切り替えしなんか、脚本、演出の両方にひたすら感嘆するのみ。右手に大根、左手に長ネギで扉にタックル!でエンジンがかかり、再びの「お前、女子プロ入ったってマジでさ…」の声もかき消されるほどの全力疾走に見とれつつ、頬に光る汗には、これはこれで別種のしみじみがある。

小夜子「うちらってさ、ホント社会でカスだよね。」
亜美「資格いらないって、これが資格じゃない。」

あぁ、カードがなかったか。「あと少し」のダメ押しで、シビアがしみじみを越える。


第5回(8/1放送)
☆☆☆★
 グー・パンチで気合入れる冒頭からそのしどけない、でも切ない感じがよく出てていい感じです。台詞がうまいことは今更言うまでもありませんが、電話番する冬美(平山綾)と土屋君(安居剣一郎)の空気感や、工場で一人黙々と製品チェックする祐三 (萩原健一)、号泣する三井(天海祐希)に肩を貸す祐三を物陰から見る小夜子、濡れタオル相手のシャドー・ボクシングといった台詞がない場面も実にうまい。
 これまでの小夜子の宣言は、アドレス帳に書き込まれてたのか。ミシンを二人で運ぶ清々しいラスト・シーンが、また素晴らしい締めになっていました。小夜子はパンチ力、キック力のわりに、持ち上げる力はないんだよなぁ。“annion”の看板が電飾入りだったとは知らなかった。これまでのベストかな。


第4回(7/25放送)
☆☆☆
 強さ(あらゆる意味での)とは裏腹な、危ういしみじみ調とのギャップが益々冴えてきてます。でもF1層向けとしては、ちょっとヒネリが利きすぎてるかなぁ。カルチャー・ギャップ・コメディという変化球な様相まで詰まってるわけですし。
 またもや出ました、小夜子が全女で大活躍っていう、はまりすぎてるデマ話!

ミナコ(高校時代の友達)「あんた、女子プロに入ったんだって!試合とか出てんの?」
小夜子「誰が流してんの、その噂?」
ミナコ「噂なの?あんたにピッタリだって言って、みんなで笑ってたんだよ。」
 思わず吹き出す亜美。にらみつける小夜子。

 内なる怒りを充満させる小夜子の表情は、やっぱりプロレスラーの趣。Tシャツのデザインをパクられた相手に張り手を浴びせる場外乱闘にいたっては、まさに女子プロ中継風なんだけど、乱闘のスローモーションにかぶさる、誰にでも思い当たるフシありのナレーションには、小夜子じゃなくても泣けてきた。日付の書き込みを入れた千円札への思いを考えれば、なおさらせつなくなっちゃいました。
 微妙に声が裏返るという、精妙な小技を見せつける萩原健一のお父さんがいい。冴えない事務員を演じる天海祐希に、ようやく初めての見せ場が。30女の哀感がにじみ出てるだけに、もっと出番が増えて欲しいなぁ。旧型クーラーの前に張り付く小夜子(深田恭子)と冬美(平山綾)にはうれしくなっちゃいました。ちょっと前の、日本の姿を懐かしむ。


第3回(7/18放送)
☆☆☆
 非常に面白い。エピソード一つ一つのクオリティが高いし、演出の趣味もいい。でも、何と言っても深田恭子の怪演につきますねぇ。その破壊力たるや、もうすごいとしか言いようがありません。
 ソウル・ロケもなかなかに雰囲気出てたなぁ。ユンソナが同伴者(深田恭子演じる小夜子)を高級ホテルに泊まらせるお金持ちぶりは、『もう一度キス』の時とまったく同じだったので、ちょっとびっくりしたけど。そういや、小夜子の着メロって、“ライスラボニータ”だったなぁ。
 第1話の点数を☆☆☆★に変更。2週間迷いましたが、あの気合はそれに値すると判断しました。「久々の一番手(!!)なので、気合を入れてがんばってます」ってオフィシャルサイトで深キョン自身も語ってました。


第2回(7/11放送)
☆☆☆★
 物語が推進する力が凄い。エピソードの積み重ね方がうまいんだよなぁ。ちょっとしたダイアローグも気が利いてます。「お前さ、全女(全日本女子プロレス)入ったんでしょ」には、あまりに的を射てて大笑いしてしまいました。小夜子も思わず、怒りの「ちげーよ」だもんね。蒲田=「しぶいね」も小さくスリリング。お母さんの形見のミシンを運ぶエピソードはしみじみとした味わいで秀逸。亜美(ユンソナ)が店を出す閑散とした湘南の海もいい。
 直情型の小夜子ですが、目につく暴力性や攻撃性だけにとどまらない複雑なキャラクターに描かれています。そんな主人公に負けじ劣らずキャラクターたち、職人気質の頑固者ぶりを発揮する小夜子の父を演じる萩原健一を筆頭に、深田恭子とは対照的な全盲の妹・冬実を演じる平山綾や、金持ちのバカ坊ちゃん、元を演じる坂口憲二にいたるまで、それぞれがそれぞれに雰囲気出てます。そして何より素晴らしいのは、主要キャストが少ない点か。どっかの局の、無理やりに無駄な多数を絡ませるドラマとは雲泥です。


第1回(7/4放送)
☆☆☆★
 異色の面白さ満点の青春ドラマ。ちょっと毛色の違う作品が見たいんだったら、今クールはこれで決まりでしょう。主人公の吉田小夜子を演じる深田恭子が、肉体的にも精神的にもその柄にあったまさにあたり役で大爆発。その破壊力たるや、ちょっとこれは凄いですよ。坂口憲二扮する元を海辺でボコボコにする場面は特に見物でした。随所に演出が冴えてたし、音楽も過剰じゃないところがいい。
 ユンソナは、『もう一度キス』の時にはユン・ソンハだったはずだけど。脚本が『深く潜れ〜八犬伝2001』『藤原周平の人情しぐれ町』とここのところ連勝中の神山由美子だけに、今後の展開にはさらに期待感が高まります。




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