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玩具の神様 (NHK総合)
「NHKドラマ館」再放送
制作・著作/NHK
共同制作/NHKエンタープライズ21、NTV映像センター
制作統括/一柳邦久、西村与志木 プロデューサー/中込卓也
作/倉本聰 演出/石橋冠
出演/舘ひろし、永作博美、中島宏海、深江卓次、須永慶、黒沼弘巳、山田明郷、櫻庭博道、宮沢美保、根津甚八、佐藤B作、立川談志、坂本長利、石丸謙二郎、佐々木勝彦、梨本謙次郎、織本順吉、阿知波悟美、きたろう、ミッキー・カーチス、深見三章、津嘉山正種、団時朗、二宮さよ子、美保純、余貴美子、小林桂樹、かたせ梨乃、中井貴一
ほか



総合評価:☆☆☆★


第3回(6/24放送)
☆☆☆★
 多重構造の駄目押しをしようとしたんでしょうけど、二谷努の妻の不倫相手、Jリーガーの瓜生に脅しをかけるシーンはやりすぎでしょう。その他はほぼパーフェクト!心に残る名場面の連続です。
 暖色で染められた「たそがれ色の海」の挿入にはハッとさせられました。台詞のないシーンもいい。特に、牧歌的な雰囲気さえ漂う、永作“玩具”博美が実家に帰るシーンからの連なり。無音でいかにもイカサマ師風の中井“偽者”貴一の写真を見せられるまでの急展開は見事としか言い様がありません。
 「悲しみ色の海」のロケ隊のドサクサに紛れて、梨本謙次郎扮するアシスタント・プロデューサーをマンマと騙すエピソードも傑作。中井“偽者”貴一の詐欺師テクが、ニセ“ニ谷努”だけじゃないことを見せつけてくれるわけですが、それにしても彼は、異常に現場の内情に詳しかったですよね(そりゃ、倉本先生が書いてるわけだから当然なんだけど)。
 中井“偽者”貴一が「玩具の神様」を読む場面には、胸が熱くなりました。化けの皮がはがれた“神様”が原稿を読んでいる間、ひたすらに待つ永作博美の、マリアのような達観の眼差しが実にいい。彼女のベスト・パフォーマンスでしょう。
 そして待ってましたの、中井“偽者”貴一と舘“本物”ひろしが対面する公園のシーン。このエピソードだけであと一話分書けたのでは。互いの一言一言に、おかしみと哀れみとが綯い交ぜになったような複雑な心境が溢れ、素晴らしい結びになっていました。この作品は今のところでの、倉本聰、最後の(?)傑作です。


第2回(6/17放送)
☆☆☆☆
 中井“偽者”貴一に比重がある第2回は第1回より断然優秀。n芝居(nは自然数のn)打ちまくる中井貴一が、その誠実キャラとのギャップで見事にハマッてます。とりわけ、イメクラ嬢役の永作博美との掛け合いは絶妙。新潟の港町の食堂で、彼女が書いたシナリオを読んで涙するシーンは特に秀逸でした。佐渡相川での口笛少女なんていうおまけないたずらは、実話ぽいですね。
 舘“本物”ひろしの師匠が語気を強めて語る「テレビに責任を持つべき」との台詞は、倉本先生ご自身の自戒の念でしょうか。先生と生徒という二つの師弟関係がダブって見える最後の30分は更に巧妙。舘“本物”ひろしの恩師の葬儀での、本物と偽者の2回目のニアミスが、また何ともいえない悲しきおかしみ。
 輪島での偽者=神様の説教はよかったね。ちょっと、イメクラの延長線上にも見えましたが。

神様「人生が長く続くなんて思うな。」
玩具「うん。」
神様「“うん”じゃない、“はい”だ。弟子なら“はい”と言え。」
玩具「はい。」
神様「明日があるなんて絶対に思うな。今日書かなかったら、明日はもう書けない。」
玩具「はい。」
神様「書けるのは今日が最後だと思え。俺もそう思う。君もそう思え。」

 「厳しくしごく」大まじめな偽者の脚本論が飛び出す海岸べりでの講義が、本物が先生から受けた西伊豆でのシナリオ林間学校のシーンと重なってくるからくりには、ハッとさせられました。
 最後に登場する角館の温泉芸者、美保純がまた最高に効いてるんだなぁ、これが。彼女がコップ酒で語る実は偽者の二谷努像と、目の前にいる本物の二谷努とのギャップがイチイチおかしくって。その話に感化され、初心に戻って万年筆で書き始めるというベタな行動をとる舘“本物”ひろしがまた実にキュートでしたねぇ。万年筆を走らせる本物の後ろには、偽者が書いた「創るということは遊ぶということ 遊ぶということは狂うということ」という文言の色紙の掛け軸が光り輝くという念の入れようにいたるまで、すっかり感心させられました。


第1回(6/10放送)
☆☆☆
 倉本聰の裏傑作、見るべし。いかにもうそ臭い舘ひろしが本物のシナリオライターで、思慮深く知的な雰囲気漂う中井貴一が偽者という、それぞれのキャラクターを逆手に取ったようなキャスティングが成立した時点で、この作品が並ではないことが保証されているわけですが、さらに本物が偽者を思い、偽者も本物を思うという多重構造が絶妙で、その両者が見事に描き分けられています。
 本物が書く実際のテレビドラマと偽者が書いている作品の世界観との絡みが実に興味深い。そこには自虐的に己を吐露する倉本先生の姿が両者ともに投影されているようでもあり、そのメタ構造が微笑ましくも皮肉に効いてます。小林桂樹が語る脚本の理想形は、倉本先生の本音でしょうか。この後、わけありの永作博美も絡んできて、ますます面白くなりますよ。




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